第5回となる今回は、眼科クリニックのデザインについてお話します。
私自身も、弊社(タカラスペースデザイン)も、診療科のなかで最も多く設計・施工をしている施設が眼科クリニックです。眼科は開業される各診療科と比べると施設の専門性が高く、多くの医療機器が導入されるため、専門の設計や施工業者を選択することが多いのではという認識を持っています。
眼科クリニックは検査機器が多く、外来患者さんの診察・検査・処置と、ほかの診療科より患者さんのクリニック内での動きが複雑です。それに伴い、対応する平面計画もほかの診療科より複雑になります。暗室内検査への患者さんの誘導や、視力検査を行うスペースで患者さんが渋滞しないようにするなどの配慮は、計画時にチェックしておくことが必要です。
また、白内障などの日帰り手術に対応できる施設を併設する場合は、手術室・手術前室・準備室・リカバリールームなども必要となり、さらにデザインの構成が複雑化します。
私が眼科クリニックを設計するときに、ほかにも心がけているいくつかの大切なポイントがあるのです。各機器やレイアウト、患者さんやドクターに対する設備などを多角的に考えていくと、設計に必要な以下のポイントが見えてきます。
建築や内装の時間軸と、新しい検査・治療機器などの進化速度が合わないことは、よくある事例です。そのため、クリニック内のLAN配線や電源配線、検査機器レイアウトは変更しやすい設計にしておくことが重要になります。
たとえば、電子カルテのサーバーと各検査機器のLAN配管を、サーバーから機器の間の通線を容易に変更できるようにするため、システムフロアを併用して壁面にメンテ用点検口を設置します。ただし、高齢者や視覚障害の患者さんが多い訳ですから、安易に段差やスロープを使わないことが大前提です。
次にアメニティについてです。眼科クリニックは、子供から高齢の患者さんまで比較的幅広い年齢の患者さんが対象ですから、クリニック内のアメニティに対する方向性は、より公共施設的なスタンスが必要といえます。車椅子対応のWCや、化粧室内のベビーシートは必須です。またクリニック内の各検査室やWCへの案内サインは、白内障の患者さんや眼帯使用の患者さんを意識し、誰にでも認識できるサイン計画を行うことが重要となります。
手術室を併設する場合、診療日と手術日が同時進行するのか否かによっても計画は変わってきます。同時進行の場合は複数のドクターが対応する訳ですから、当然その点についても考えなければいけません。1日の手術数と手術時間を考慮し、リカバリールームの数や手術前の患者さんの受付・待合室なども検討する必要があります。
また、感染症防止のため、手術室のクリーンルーム化は必須です。クリーン度の選定も、多くの施設でクリーン度は「クラス10,000」がひとつの指針となっています。
クラス10,000とは、1フィート立方(約28.8L)内に0.5ミクロン以上の浮遊粉じんが10,000個以下であることを指します。ウィルスは単体では存在せず、浮遊粉じんに付着していることから、粉じんの数がクリーン度の基準になります。
さらに、手術室内のメンテナンスが容易に行える工夫や、手術中にほぼドクターひとりで室内をコントロールできるような仕組みを取り入れることも大きなポイントです。
手術する患者さんにとって、日帰りとはいえ手術を受けるストレスやプレッシャーを緩和する配慮は重要です。安全・安心に加え、リラックスと身体にやさしい環境づくりを主軸として計画を立てることが、最も大切だと考えています。
[オペ室]
[リカバリールーム]
[検査室]
[診察室サイン]
[待合室]