今回は、内科クリニック(診療科目の表示形式として内科・呼吸器内科・循環器内科・消化器内科)の空間デザインについてお話します。
国内にあるクリニック(診療所)総数約10万件のうち「内科」または「〇〇内科(呼吸器・循環器・消化器・神経・心療など)」と標榜しているのは6万7,000件前後と圧倒的で、開業件数が最も多い診療科です。
内科の空間デザインは、多岐にわたる患者さんの属性を踏まえ、老若男女のさまざまな疾患に対応するための空間をどう計画するかがポイントとなります。また内科標榜に専門性を加え、先生の得意分野を中心に構成していくかによっても空間デザインは違ってくるのです。
たとえば、かかりつけ医の場合と専門性を加えた消化器内科などでは機能も異なります。それぞれをクリニック空間構成上で検討すると、以下のポイントが挙げられます。
かかりつけ医の場合、ある程度「身近でなんでも診てくれて、相談に乗ってくれる」ことが大切です。
・診察室や健康相談室、または生活習慣指導室で、健康相談や健康指導が行える
・病状に応じ、ネットワーク先の専門診療所や総合病院へ紹介できる
・インフルエンザなどの感染症により、かなり体調が悪い状態の患者さんでも応対可能
一方、専門性を加えた内科の場合では日帰りベースでの診察・診断・治療がクリニックで完結できる機能が必要となります。
・消化器内科では内視鏡検査(胃や大腸)に特化
・循環器内科では負荷心電図検査用のトレッドミルなどの検査ができる
それぞれの観点から、必要な機能には違いが見られます。しかし、どちらにおいても私が内科クリニックを設計する場合には、機能性以上に重要視している3つのポイントがあるのです。
まず、待合室の椅子を例に挙げてみましょう。具合が悪い患者さんにはベンチ―シートや長椅子ではなく、一人ひとりが分かれている単脚ソファータイプを、座り心地もきっちり検証したうえで提案します。
次に化粧室のデザインは、スペース的に可能であれば利用する人を選ばないユニバーサルデザインにします。手を洗う水洗はオート水栓、ペーパタオルまたはハンドドライヤーを設置して、化粧室出入り口の建具には抗菌材を使用します。
これらは患者さんが直接受ける医療行為ではありません。しかしこういった患者さんに対する空間や環境の「しつらい」は、クリニックとして迎える側の意思や想いを表すものです。日常生活に最も近い医療である「内科クリニック」の環境は、そこからがスタートであるべきと考えています。
医療環境についてはコラムの第2回でもお話しましたが、診察室を2つの部屋に分け、診察の利便性と感染症の隔離室的機能の向上を図ります。また各処置室や検査室の配置は、診察室を中心にレイアウトしていきます。
ここで重要な点は、基本的に診察室は室内側からの放出を防止する「負圧」、反対に処置室は室内気圧をほかの部屋より少し高く設定し、雑菌やチリ・ホコリが部屋に侵入するのを防ぐ「陽圧」とすることです。このような換気システムの計画により院内でのウイルスや雑菌をコントロールすることが可能になります。
胃カメラや内視鏡検査などの医療行為は、患者さんに負担がかかります。専門性の高い診察や治療を行う空間では、もちろん検査室の機能も重要ですが、患者さんが身体を休めるための「リカバリーコーナー」を設けるなど、快適性への配慮が必要です。また、負荷心電図検査に際して、検査衣に着替える場所や貴重品を含め私物のロッカーなど設置により利便性を高めることも重要といえます。
「内科・〇〇内科」と標榜する場合、多くは「かかりつけ医」としての機能を必要とします。重要なのは患者さん目線ですが、患者さんの属性が多岐にわたるため、求められる医療環境も多くのことに対応せざるを得ません。限られたスペースでどんな点を重要視して空間を創っていくかは、開業される先生が「目指す医療」をどのポイントにおくかで決まります。まさに空間デザインが”言葉のない伝達機能”になると、私は考えています。
[待合一人用ソファ]
[化粧室]
[診察室]
[陽圧の内視鏡室]
[内視鏡収納]
[リカバリールーム]